東京地方裁判所 昭和31年(ヨ)4093号 決定
申請人 宮林光蔵
被申請人 大映株式会社
主文
本件申請を却下する。
申請費用は申請人の負担とする。
理由
本件申請の要旨は
「申請人は東京都に本店を有する被申請会社の従業員であるが、被申請人は昭和二十五年九月二十六日以降今日に至るまで申請人の提供する労務の受領を拒否し、申請人に対し昭和二十九年十一月五日以降の賃金として金三十三万五百四円を支払つたのみで、昭和二十五年九月二十六日以降昭和二十九年十一月四日までの給料総額七十一万六千九百二十三円を支払わない。
申請人は給料のみに頼つて生活している労働者であるから、今給料残額の支払を受けなければ生活に支障を来し窮迫な事態におちいるから、右残金の支払の仮処分を求める。」
というのである。
(当裁判所の判断)
疎明によれば
(一) 申請人は昭和二十五年九月二十五日被申請人から解雇の意思表示を受けたが、被申請人を被告として京都地方裁判所に該解雇の無効確認の訴を提起し、同庁昭和二十六年(ワ)第八七三号事件として係属し、昭和二十九年九月四日同庁から勝訴の判決を受けたこと
(二) 被申請人は右判決に対し控訴し、右事件が大阪高等裁判所に係属したところ、申請人は昭和二十九年十一月五日同庁から該解雇の意思表示の効力停止の仮処分決定を得たこと
(三) 次いで申請人は昭和二十九年十二月二十七日被申請人を相手方として同庁に対し昭和二十五年九月二十六日から昭和二十九年十一月四日までの賃金合計七十四万二千六百五十五円と同月五日以降毎月給料相当額の支払を求める仮処分の申請をし、昭和三十一年一月三十日同庁から昭和二十九年十一月五日から昭和三十一年一月三十一日までの賃金未払分金七万一千八百十九円八十九銭を支払うべき旨のいわゆる賃金仮払の仮処分決定を得たこと
(四) 被申請人は申請人に対し(三)記載の仮処分決定以前は、毎月九千五百九十円(ただし第一回は、八千三百十二円)あて、右決定以後は、右決定により支払を命ぜられた金七万一千八百二十円と現在まで毎月金一万四千五百十四円あてを支払い、現在までの支払総額は金三十三万五百四円に達していること
(五) 被申請人は今後も毎月一万四千五百十四円あてを申請人に支払う意思であること
(六) 申請人は独身で扶養すべき係類のないこと
の諸事実が認められる。
(本件仮処分の必要性)
しかしながら、前認定の諸事実から見ると独身で扶養すべき係類のない申請人がすでに被申請人から賃金として金三十三万円余の支払を受け、今後も毎月一万四千五百十四円の支払を受けられるものである以上、更に昭和二十五年九月二十六日から昭和二十九年十一月四日までの賃金総額七十一万六千九百二十三円の全部又はその一部の支払を受けなければ申請人の生活が危殆に瀕するものとは認められないから、仮に申請人が右給料請求権を有するとしても現在その支払を命ずる仮処分の必要性がないものと認めるのが相当である。
以上のとおり申請人の本件申請は理由がないからこれを却下し、申請費用は民事訴訟法第八十九条に従い申請人の負担とすべきものである。
よつて主文のとおり決定する。
(裁判官 西川美数 大塚正夫 好美清光)